戦争交響曲 音楽家たちの第二次世界大戦

 サブタイトルにもある通り、音楽家に着目して第二次世界大戦を追う。音楽家といっても、ドイツを中心的に描くため、特にフルトヴェングラーワルタートスカニーニカラヤンに焦点を置いた描かれ方となっている。ドイツ、すなわちヒトラー反ユダヤ主義に巻きまれた人々とも言える。特にこの4人はドイツに残ったフルトヴェングラーカラヤン、ドイツを離れたワルタートスカニーニ。ドイツ組はいかにナチスの広告塔として利用されてきたか、そしてドイツを離れた二人がどのようにナチスの思想と戦ったかが語られる。

 主には上記の4人の話であるけれど、終戦直前のルービンシュタインの話が感動した。

 4月25日、日本との戦争はまだ続いていたが、ドイツ降伏は時間の問題となっており、連合国は「国際機構に関する連合国会議」をサンフランシスコで開いた。
 戦後処理と国連設立が話し合われるこの会議には、50カ国が参加していたが、ポーランドからは誰も参加していなかった。ポーランドには、ロンドンにある亡命政権と、国内にあるソ連が支援していた政権と、「二つの政府」があり、どちらが正当な代表であるかもめていて、代表を送れなかったのだ。
 偶然にもこの会議の開催中に、ルービンシュタインはサンフランシスコで演奏会を開くことになっていた。コンサート会場には会議に出席している各国代表も来て、各国の国旗も並んでいた。
 ルービンシュタインは舞台へ向かう直前に、ポーランドはどちらの政府が本当の政府になるか分からないので代表が来ていないことと、会場にポーランド国旗がないことを知った。彼は胸の動悸が高まるのを感じながら、ステージに出た。まずは《星条旗よ永遠なれ》だ。客席の全員が直立不動で聴いた。それが終わると、次はショパンのつもりだった。しかしルービンシュタインは自分でも制御できなくなっていた。彼は立ち上がり、言った。
「より良き世界の創造のために偉大な国々が集まったこのホールに、ポーランドの旗がありません。この国のために残酷の戦いがあったというのに」
 そしてより大声で叫んだ。
ポーランド国歌を弾きます!」
 それはかつてナポレオン軍に向かって戦ったポーランド軍が作った国家だった。会場の人々は唖然としながら聞いていた。すさまじい音量でルービンシュタインは弾いた。ホール中に最後のフレーズがフォルテで繰り返された。聴衆は立ち上がり、大喝采ポーランドのピアニストに贈った。興奮を鎮めるのに数分が必要だった。ルービンシュタインショパンソナタを弾くと聴衆に言って、音楽を始めた。
 ルービンシュタインにとっての戦争はこうして終わった 。

 ドイツが敗戦に向かい、ナチスの影響がどんどん弱くなりにつれ、それまで抑圧されていた人々が動き出していく様子がとても感動的。現実のことであるのに、ドラマのようなカタルシスを感じる。しかし現実のことであるというのが何より恐ろしい話だ。キナ臭い2019年。例えば米中のおいて科学技術は、本書で語られたような音楽と同じような動きをしているのではないか…。