ダークナイト:主人公は誰だ

 各所で評判がめちゃくちゃ良いので観に行く。正直なところ、「バットマン」てちゃんと観たこと無いのです。「勧善懲悪な典型的アメリカ的発想のヒーロー?アメコミだしね」、と勝手に想像ばかりはしていたのだけれど。初めてWikipediaバットマンの項を覗いてみて、その歴史の長さを知る。Wikipediaによれば1939年に発行された雑誌にて初登場とあり、つまり70年経過したバットマンは、今もテーマとして最前線にいる訳だ。著作権のなかなか切れないネズミを彷彿させるモノがあるな。同時代にヒットしていた「スーパーマン」もアメリカでドラマが放映中らしい!「スーパーマン」なんてネーミングからデザインまで、かなり古臭さが漂っているのに…!と思って公式サイト見たら意外に現代風で格好良さそうだった。(邦題の「ヤング・スーパーマン」ってのがダサイが)

 で、閑話休題してダークナイト。単なる「アメコミ」というイメージを払拭するに十分な作品!というのが第一印象。単なる正義と悪が対決するというテーマを軸にいくつかのストーリーを巧みに絡ませ、2時間半以上というやや長めの尺を、集中力を途切れさせる事無く進行させる演出、本当に素晴らしい。こういった長尺モノは、助走が長かったり、中だるみがあったりして、その「長さ」が気になる事が多い中で、この事は注目すべき事だ。

 これはある意味海外ドラマ的な演出に基づいて進行されているからだろうか。めまぐるしく展開するシークエンスの連続で物語を構成し、視聴者を放さないあの手法だ。そういえば物語の展開が所々突発的に進行したり、切り替わったりする場面が多かったように思う。それを追うのにややエネルギーを要する。何よりバットマンの知識はゼロに等しい自分にとって、当然のように扱われる人間関係に翻弄されてしまったわけだが。これは以前までのシリーズを見ておけば恐らく回避出来たなぁ…「ビギンズ」みたらまた見よう。

 さて今回メインテーマとして扱われたのが「勧善懲悪の限界」「巨大な正義が生む矛盾」である。コレはもう9.11以降の新しいアメリカ的発想と言えるまでによく扱われるようになったように思う(日本のアニメは数十年も前からやってるが)。だがそのテーマの中で、この映画の主人公はバットマンではなくジョーカーだったかな、と鑑賞後に思う。劇中において主張を最も語るシーンが多いのは勿論のこと、そのメッセージの強さや観客とジョーカーが対話する時間から言っても、本来主役であるバットマンの扱いは小さい…というかバットマンの印象が極端に小さいよ。「バットマンの正体を明かさなければ次々を人を殺す」というジョーカーの脅迫に対して、自分の正義を貫くか、それとも悪に屈して正体を明かすのか、また絶対的な正義が生んでしまったジョーカーという巨悪、など、本来人々を守るべき存在がその守るべき対象を恐怖に陥れる原因となる…というイデオン的な存在矛盾に苦悩するバットマン、というあるべき描写が少ないように思う。例え正義漢であろうとも、大きな絶望を与えればたちまち復讐鬼に変貌する、という現れであるトゥーフェイスも、その主張はジョーカーの物で、トゥーフェイスはただそれを具現化したに過ぎない。全編ジョーカーの主張で溢れているのである。

 邦題だと気付きにくい点だと思うのだけど、この作品のタイトルは「The Dark Knight」なのである。そのまま訳してしまえば「闇の騎士」。法で裁けない悪人をそれに代わって裁くバットマンに主眼を置いたタイトルだが、鑑賞後の印象としては完全に「The Dark Night」。勿論同じ発音の単語なので意味的に引っかけているのは間違いない。

さて皆様の印象はどちら。


公式サイト:ダークナイト

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