苦手な場所

 人数が多くてうるさい飲み会、最悪。居場所自由で固定の席がない立食、最悪。二つの最悪があるという言葉の矛盾。よく耳にする「最も素晴らしい選手の一人」って、最も素晴らしい選手が二人以上いるんかい!つまり評価基準の違うので、ある点で最悪であり、違う点でまた最悪であるということだ。うん、まぁ理屈はわかるけど昔からモヤる表現である。MOMが二人いるような話。ディフェンスとオフェンスについてMOMが一人ずつ。うーん。次第に間違った優しさによって全員にMOMが与えられたりするんだよね。「よく走りました」「よく声を出しました」「よく頑張りました」「気持ちが伝わりました」んで、ベストオブMOMが選出されると。つまりMOMは本来のマンオブザマッチという意味合いを失って、ただの個人評価コメントに成り下がる。敬意漸減。その果てに生み出されるベストオブMOM。ゆる言語ラジオで解説されていた「させていただく」現象だ。

 という見えない敵と戦う話はともかくとして、最悪な状況について整理したい。酒を飲むと人は気持ちが大きくなる。気持ちが大きくなるというのは、普段の謙虚さや常識が無くなることだ。端的にバカと言っていい。酒を飲むとバカになりやすい。バカが集まったときに、まだバカでない人間が取れる選択肢が二つ。バカになって頭悪い側に加わる、それとバカを遠ざけて静かにしている。バカは嫌いじゃないし、バカになるのは気持ちいい。しかし意図的にバカになるのは難しい。それは才能だ。まずバカになる為には他人の迷惑とか、冷たい視線とかを無視する必要がある。そんなことできるか?自然にできるとすれば気心知れた友達とプライベートな空間であることが条件だ。大きな声を出しても、恥ずかしい振る舞いをしても自分の評価が下がらない状況。それ以外でバカになれるなんて、それは才能というしかない。バカという才能。つまりバカになれるのはそもそもバカ。トートロジーかよ。

 したがってバカじゃないやつの居場所は、バカを遠ざけた隅っこしかない。逃げ場のないバカだらけの飲み会は最悪だ。バカは声がでかいしリアクションもでかいし、自分を抑えられない。やかましい飲み会は最悪。うるさいバカに付き合って大きな声で話さないと自分の話が届かない。喉が枯れるし、話が伝わらない可能性もあるし、とにかく疲れるので黙ってる。バカの注意を惹かないように黙っている。そうするとコミュ障の暗い人間の出来上がりってわけ。バカに混ざれない陰キャはそうやって自己の陰キャ属性を濃くしていくのだ。この空気に混ざれない自分への苛立ちもある。なんでわざわざ飲み会に来てまで、隅っこで静かにしているのか。だったらそもそも参加すべきじゃない。時間の浪費やんけ。他に色々できたのに。サウナイキタイ。

 次に立食も最悪だ。立食は自由に動けてさまざまな人とコミュニケーションを図れるという機動性の高い形式だが、それがデメリットとしておれに働く。こういう不特定多数の人とお喋りしてくださいってルールは、「他人に興味がない」という能力とマッチしない。目の前の大して知らん奴の話なんか聞きたくないんじゃ。かろうじて仕事の話をするしかない。でも仕事の話は仕事場でしている。特にその人の良かったことは積極的に伝えるのよ、おれ。そうすると残りはその人の悪い話って事になるんだけど、そんな事こそこの場で伝える必要はない。修正して欲しい悪い点があるなら、そんな立食パーティみたいな場じゃないところで伝えろ。で、結局バカが多い少ないに関わらず、不特定と喋らなくて済むようにおれは隅っこへ逃避する。ところが隅っこには同じような他人に対する興味なし人間が集まり、それはそれで微妙な空気になることがある。せめてなんか自分のことについて質問してくれたら喋るのに…って思うけど、お互いにそう思っている。お互いに他人に興味がないからね。知りたい情報も、雑談として扱える話題も思いつかない。そして気まずい沈黙。天気とか、最近忙しいんですかみたいなふんわり会話をするハメになる。帰りたい。すぐ帰りたい。他に色々できたはずだ。残ってる仕事を片付けたり、サウナに行ったり。

 あとさらに付属すると嫌な要素。酔っ払ってキス魔になる女。女同士でキスしている分にはまだバカの範疇なのだが、そこにワンチャンおじさんがいると話が違う。おじさん達から下心を持ってキスをもらいたがるアトモスフィアが途端に漂い始める。女を介抱するフリをしてハグやキスを狙う。そういうラッキースケベ自体はまだバカな笑いの範疇なのだが、それを狙いに行く淫らなアトモスフィアが最悪なのだ。ただのバカな雰囲気から、おじさんの邪悪で淫らな意図が忍び込んでくるのだ。本当にその意図があるかどうかは問題ではない。おれがそれを感じるから感じるのだ。ハラスメントと一緒の理屈だ。その通り、おれがそのワンチャンおじさんの1人だからだ。でもそれを意思の力で制御しているんだ。その邪悪な下心を制御せずにバカのフリをしてラッキースケベを獲得しにいくおじさんが憎い。