大阪物語/監督:吉村公三郎

大阪物語 [DVD]

大阪物語 [DVD]

TSUTAYA溝口健二作品を手当たり次第にカゴの中に放り込んだ中に入っていたこの作品。あれ、オープニングでクレジットされた監督の名前が違うじゃないかと思いつつ視聴。Wikipediaによると

当初は溝口健二監督作品として企画され、二代目中村鴈治郎三益愛子主演でクランクインした人情悲喜劇。溝口が三益に「ちょっと病院に行ってくる」と告げて病院に行くと白血病だとわかり急遽入院。溝口の急死により吉村公三郎が引継ぎ、三益の代わりに浪花千栄子が起用された。主演は鴈治郎が、クレジットでは売り出し中の市川雷蔵の名がトップとなっている。

という経緯があって監督が交代していたらしい。(「ちょっと病院に行ってくる」って台詞が何故か「ちょっとそこのコンビニまで買い物行ってくる」みたいな軽さで脳内再生されるのは何故なんだろ。)

 借金が払えずに貧乏にあえぐ家族が、夜逃げするシーンから物語は始まる。夜逃げの道中、焼かれてしまう自分の家を目の当たりにしながら、必死の思いで大阪の町に出る。とはいえ文無しでは生きていくことは出来ない。父は家族のために職探しをすることになるが、どこの者とも分からない、身なりの汚い彼らを使ってくれるところはどこも無し…。そんな時子供達が、米俵からこぼれた沢山の米を拾い集めて持ってきた。その事をきっかけにして、家族はその米を拾い集めて金にして生活を始める。そして10年の歳月が経ち、家族は両替商を営むまでに裕福になっていた。しかしその10年の歳月が父の倹約癖を度を超したものにまでさせてしまう。

 異常なまでのケチ癖のついた父親を中心に、振り回される家族が描かれている。喜劇的にも思える作品だけど、その中に巻き込まれていく家族のつらさ、そしてラストシーンは観ていてやはり気持ち悪さが漂う。人間だれしも欲が深く、金はあればあるほど良いものだと思う。だがこの父親にはそのギャップが強すぎた。極貧な生活から裕福な生活へ、10年間の歳月が生み出した環境の変化はあまりにも急すぎたのかもしれない。熱しやすく冷めやすい金属のように、急速に積み上げたこの財産が、ふとした瞬間に失われてしまうのではないかという恐怖感を常に感じていたに違いない。

 ちょっと残念なのは演出と結末かな。設定と途中までの展開は良かったのだけど、結末にもう一捻り欲しいのと、やはり溝口健二独特の映像美に欠ける気がしないでもない。