06年の雑誌に載ってた養老孟司の表現規制の話がタイムリー過ぎる

 年末の大掃除。読まずに積んでる本で溢れている本棚を整理していたら、非常にタイムリーな話題が載っていました。2006年に発売されたメカビの創刊号。養老孟司が「オタク解剖学」としてインタビューに答えています。その後半が表現規制について答えていて、非常に今の都条例の件と関連が深いなと思ったので書き起こしてみました。

――青少年育成関連の法案で規制しようとするなど、マンガ・アニメ・ゲームの性表現・暴力表現は何かと物議を醸しますが、どうお考えですか?
憲法に書いてあるじゃない、表現の自由って(笑)。
 そもそも、まともな人間がマンガの規制をしようと思うのかねえ。思うこと自体まともじゃないよ。あるマンガを読んで、こういう犯罪を犯したいとか、普通は思わないでしょ?
 大体それを人のせいにするなっていうんですよ。そういう犯罪者は、マンガを読まなくたって、犯罪を犯すんだよ。いい大人が人のせいひするなっての。
 まあこの手の議論は、戦後ずっとやってきたことだから、もう慣れてもいいと思うんだよね。いいかげんにしろよと思っちゃう。

――マンガだけでなく、文学などもかつて裁判などがありましたよね。
■僕は『世界一受けたい授業』というTV番組に出演したんだけど、そこでドイツの人体標本プラスティネーションを見せた。TV局がちゃんと借りてきてくれることを条件に、僕はこの仕事を引き受けたの。
 本物の人体標本というのは、あまりTVでは映さないんですよ。あれこれ言う人がいるから、長年やってこなかった。
 だけど私は始めたんです。それは自分がやっぱりその必要があると思うし、こちらが本気だからできる。表現も同じで、そういうギリギリのところに来たら、作る人の側が、それだけの必然性を持っていなければ、規制されてもしかたがないと思うよ。
 文学ではとうの昔にやってきたこと。『チャタレイ夫人の恋人』とか『四畳半襖の下張』とかさ。ほとんどその裁判風景ってのは、「マンガ」になっていますよ。あれは本当に面白い。丸谷才一が特別弁護人で、参考人をたくさん呼んだんです。
 井上ひさしとか有吉佐和子とかの証言があって。とにかく腹を抱えて笑ったよ。そういうものは一番参考になるんじゃないかな。マンガやアニメの表現規制もさ。

  ――低俗・エロ・暴力など、いつの時代も、表現には規制がついてまわるものなんでしょうかね。
■俺が独裁者だったら全部銃殺にしちゃうけどね(笑)。そもそも人間って低俗なんじゃないですか?規制する人に言ってやればいい。「あなたはよっぽど高尚なんですね」って。恥を知らない人が多すぎるよ。そういうのをアホっていうんだよ。
 マンガを読んだらわかるでしょうよ・高橋留美子のマンガなんて、品も良いよ。

――『ハウルの動く城』のCMに出演されていましたよね。
■アニメで観ているのは、今は宮崎駿の作品くらいかな。宮崎さんの作品は、本当に好きな人いるからね、「オタク」ほどは観ないけどさ(笑)。
 あの人は自分の作品を決して重いものと考えていないんだよ。一回観ればたくさんだよって言ってらっしゃる。五〇回繰り返し観ましたとか言う人がくるとぞっとするってね。むしろ、ある種の軽さがあるんだから、それを評価してあげなきゃいけないよな。

――いまや宮崎アニメは国民的アニメとも称されています。
■そうそう。そういう意味でアレは「健康」なんですよ。だからってこれを基準にして、そうでないのを規制するっていうのは、どうかと思うぜ。なにを考えてんだかな、ひまだなあって言うしかないよな。
 僕はいつも思うんだけど、ゼロにすることなんてできないんですよ。だいたいねえ、「人を殺すな」って言って何百年人を殺してるんですか?考えたらわかるだろうが。規制じゃ消えませんよ、そんなものは。

――ゲームが好きだと伺いました
■気に入ったゲームをずーっとやってる。僕はゲームはなんでもやるよ。ゲームが始まって以来、それこそシューティングゲームが始まった頃からのファン。『スペースインベーダー』、『平安京エイリアン』……一生懸命やった。
 あの頃のゲームは全部やってるよ。それから『マリオブラザーズ』が出て、徹夜でやってさぁ。女房にカンカンに怒られたもんだ。子供がマネするよって(笑)。

――いまはどんなゲームをやっているんですか?
■みんな聞くけどさあ、言わねえの。面倒くさいから(笑)。
 ゲームが出てきてから、一人でいても退屈することがなくなりましたね。読書も疲れたし、ちょっとひまができたら、休憩にゲームをやっているんだよ。そしたらまた疲れちゃってバッタリ。

――政治家の方に聞いたところ、マンガは良いけどゲームは害だという声もありました。
■昨年、『日経ビジネス』の対談で任天堂の岩田社長に会ったんだけど、いやものすごい立派な人ですよ。だいたいゲームはちゃんとしたものを作らなきゃ、すぐお客が「クソゲー」って放り出しちゃうから。本当の意味の人間のニーズってのを、ゲームは捉えてますからね。それをダメと言うようなのが政治家をやっているんだったら、もはや絶望的になるね。
 政治家は、人間を知らなくてはいけないんだから。じゃあ何で人間、特に子供がそういうものに引っ張られるのかということを考えなければいけないでしょう。
 ダメだっていう代わりに、これをあげるというんだったらわかるけれども。しょっちゅう政治家は対案を出せって言われてるじゃない。ゲームがダメだっていうなら、おまえらは子供に何させようっていうんだ。
 今は「客が来て、邪魔だからTV見てろ」という世界でしょ。外にいたら危ないから家にいろってさ。それでよくゲームがいけないとか言えたもんだ。ふざけんじゃねえっての。どれだけてめえがゲームの恩恵をこうむっているか考えたことがあるかって。
 よく非行に走るとかいうけど、まったく逆でしょ?あれだけの子供が一生懸命ゲームやっているから、非行が少なくて済んでいるんだろうが。非行なんかに走っているひまはないよ。マリオやってたらそんなひまないですから(笑)。
 そういう変なことを言う人には、「おまえらバカか」って言ってやりたい。触れたこともない人間に言う権利はない!特に政治家は人間を心得なかったら、何にもできないはずでしょ。なぜ子供がゲームをやるかもわからないで、よく政治家やってられますねえ。

――先生が考える、子供がゲームにはまる理由は何でしょうか?
■世の中が平和になるということは、危険がないっていうことだけど、別の言い方をすると、面白くないってこと。そうすると代わりのものが必要になってくる。
 若い人がゲームに夢中になるのは、そういうこと。時には暴力的な世界が、若いうちにはどうしても必要なんだと思います。
 それが古くは自然の中で満たされていたわけですよ。今はそうじゃなくなっちゃった。現在は、ものすごく規制された生活ですからね。でも今の人は自分が規制されているってこと自体に気が付いてないと思う。その上で徹底的に規制しようとするんだからね。タバコも吸うなとかさ。もうわけのわからないことを言っているよ(笑)。

――最後に、これからのオタク文化の担い手たちへメッセージをお願いします。
■よく「自然」って言葉で一般に言われちゃうんだけど、僕が心配しているのは、人間の作らなかったものに対する感覚が、その人にどの程度あるか。それが長い目で見た時の勝負になるからね。結局絵にしても、筋書きにしても、ゲームにしても、すべて人工だから。何が中心になっているかにもよるけど、基本的にすべては自分が感覚から採り入れてきた世界の中に元があるわけで、人間の頭が作っていますから。
 クリエイターって言葉があるけれども、人間は無から有を作ることはできない。神様じゃないんだ。人間に創造なんかできるわけがない。そうすると自分の持っているものを出すしかないんですよ。自分の持っているものを豊かにするにはどうするかっていうと、それは「自然」に触れるしかない。
 最初から冷暖房完備のところに住んでいて、頭だけ使えるかっていえば、それは無理だろう。どっかで身体を使って働いた方が良いね。脳と身体の両方の経験を積むことが大切ですよ。身体だけだったら、今度は頭がお留守になるしね。
 本気でやれば、何事も必ずついてきます。こういうこともいるな、ああいうこともいるなって、自分でわかるはずですよ。

 06年の記事ですので今、同じテーマでインタビューをしてどのように答えられるのかは不明ですが、特に『だいたいねえ、「人を殺すな」って言って何百年人を殺してるんですか?考えたらわかるだろうが。規制じゃ消えませんよ、そんなものは。』という所は非常に納得の行く話だと思いました。このインタビューの内容と今回の都条例の件については、論点が多少ずれています。しかし「臭いものに蓋をする」的な処置がいかに効果の薄いものかという事を改めて考えて貰いたいと思います。

メカビ Vol.01

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