正義のミカタ ~I’m a loser~:何も解決していない?

 「MISSINGの著者が贈る、書き下ろし青春小説!」と表紙に踊るキャッチコピー。非売品とプリントされた簡素な本。これは発売前に配られる「プルーフ本(見本本)」と呼ばれるものらしい。本が好き!から頂きました。ちょっと出版の裏側に触れて得した感じ。

正義のミカタ―I’m a loser

正義のミカタ―I’m a loser

 さてさて本が好き!内でも大好評の「正義のミカタ~I'm a loser~」である。既に発売中。この間寄った本屋にはランキング2位!とかなり売れているらしい。

 ストーリーは、高校時代まで酷いいじめに耐えながら、大学入学を期に自分を変えよう!とした主人公蓮見亮太の話。不幸にも自分をいじめていた相手、畠田と同じ大学に入学してしまう亮太。しかしそのことがきっかけで「正義の味方研究部(セイケン)」に入部し、これまでと違う環境が亮太をどう変えていくのか…!

 全体を通してトモイチに引っ張られる形で回っていく。これまで仲間だとか友達だとか、ましてや恋愛などと縁のない生活を過ごしてきた亮太が、そういうことに触れていく爽やかさに充ち満ちた感じ。「君に届け」に通じるものを感じる。文体も読みやすく、ドンドン読み進めていける。

 しかし本書のテーマは単なるいじめられっ子の脱皮物語では無い。ハッキリ言って亮太がいじめられっ子だったという要素は特に重要なものでは無い、と思わせるほど「正義」を問う作りになっていると思う。特に後半の核となる人物に出会ってからの亮太は、セイケン部員としての彼は無く、ただの信奉者である。

 ココでニクい構成になっているのは、単なる信奉者となりつつある亮太を簡単に否定出来るものでは無いこと。正義という意味について閉塞感がストーリーに漂い始める。そもそも正義とは何なのか?そんな問いをすることさえ恥ずかしいくらいに繰り返されてきたテーマ。そして結局正義は主観的なもの。正義の味方という存在自体が主観的な存在であることは間違いない。事実セイケン部員は登場の初期こそ急性アル中やレイプ事件に首を突っ込んで規律を正す、という正義を演じていたものの、後半特にラストの彼らは非常に曖昧な存在になってしまっていた。そんな姿に亮太は疑問を感じたのだろうが。

 それにしても亮太はこの結果に何かを得たのだろうか。畠田との関係は解決するのか。正義に対する哲学と、少しの勇気を得てこれまでと変わりない日常を迎えてしまうのではないか?そんな気持ちのスッキリしないエンディングであったようにも思う。


正義のミカタ―I’m a loser

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