エンドクレジットに最適な夏

 先日読み終わったガルシア・マルケスの「落葉」に続き、本が好き!から献本を頂いた「エンド・クレジットに最適な夏」を読了した。どうやら現実には季節は、大抵残酷な運命が待つ冬になってしまった。6月中旬に受け取ったのに…。

 作者は「A HAPPY LUCKY MAN」でデビューした福田栄一氏。本書のオビに「新世代を担う新鋭達の…」とあったので、まだデビューからまだ日が浅く、人気も6月の時点ではそれほど高い作家ではなかったようだ。少しAmazonで調べたところによると、昨年中に数冊出版化がされているようなので、一定のファンが付くようになったのだろうか。

 さて本書は、"にわかトラブルシューター"の大学生主人公がいくつかの事件を2転3転させながら、鮮やかに解決に導いていく、というお話。「東奔西走 三転四転 絶体絶命」とオビに付けられたコピーからして、外国テレビドラマばりに事件の転がりが止まらない、息つく暇のない疾走感を表している。事実読み始めると、ストーリーが面白いように転がりつつ、膨らんでいく。また同じくこちらも読むのを中断することなく、一気に消化することが出来た。

 特にこの疾走感を助けているのは、圧倒的な読みやすさ。全体的に文体が会話を主体としていて、特におかしな事をいう子もいないのでざっくざくと頭の中に入れることが出来る(イメージがし易いから、読みやすくもなる!)。この読みやすさはまさにライトノベル。いや、ライトノベルによくある無理矢理なルビやファンタジーが無い分もっと読みやすい。そんな訳で内容とこの読みやすさのおかげで、あっという間に結末までたどり着いた。短距離走のような感覚。これはちょっと気持ちいい。

 内容について注文を付けるならば、主人公があまりにも優秀すぎるということ。「荒れた公立学校で生き抜いた」というバックグラウンドを盾に、行動力から洞察力、交渉力、そして腕力と、あまりにも多くの能力を備えていて失敗が無い。全ては都合の良い方向へ進んでいくし、立ちふさがる敵は傷一つ追うことなく瞬殺だ。ちょっと人間味が足りなくないか。どこかスキのある人物にこそ、読者は感情移入をするものだ。そういう意味では、年の離れた妹にはデレデレしてしまう…という意外?な一面がその役割を果たすハズなのだが、特に重要なきっかけになることも無かった(隣部屋の住人を気にかける小さなきっかけにはなっていたけど、その程度では今ひとつ)。勿体ない。

 とはいえ優秀すぎる…なんてのは読み終わった後にそういえば、という程度の感想で、先に挙げたように疾走感のあるストーリー運びには興奮させられた。モヤモヤとした気持ちを抱えているようならば、スカッと清涼飲料水を飲むように読んでみるのも面白い。

エンド・クレジットに最適な夏

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書評/ミステリ・サスペンス