カミュ - 異邦人

「君は若いし、こうした生活が気に入るはずだと思うが」
私は、結構ですが、実をいうとどちらでも私には同じことだ、と答えた。すると主人は、生活の変化ということに興味がないのか、と尋ねた。誰だって生活を変えるなんてことは決してありえないし、どんな場合だって、生活というものは似たりよったりだし、ここでの自分の生活は少しも不愉快なことはない、と私は答えた。
(中略)
私だって、好んで主人を不機嫌にしたいわけではないが、しかし、生活を変えるべき理由が私には見つからなかった。よく考えて見ると、私は不幸ではなかった。学生だった頃は、そうした野心も大いに抱いたものだが、学業を放棄せねばならなくなったとき、そうしたものは、いっさい、実際無意味だということを、じきに悟ったのだ。

主人公の無気力さ、変化に対する諦めが色濃く出ている印象的なシーン。なにかこう現代人に通じる物がある。自分の頭の中だけで悲観的に結論づけて行動を起こさない。長く慣れた現状の居心地の良さから離れる事が出来ない。「不幸ではなかった」という感覚は、多くの人が感じている感触だと思う。だが幸福か、と問われて果たしてそうだと肯定できるか。

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