ラッシュライフ

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

 こちらの著者も初。伊坂幸太郎宮部みゆき同様にメジャーな作者だろうに何故か読み方が偏っている。
 ことなる4つの物語がバラバラにそれぞれ少しずつ進んでいく。一見、互いに関連しそうにない人々の物語だったものが、読み進めるうちに少しずつ絡み始める。この伏線の回収の鮮やかさがとても気持ち良い。

 他の物語と比べて黒澤の物語だけはどこか雰囲気が違う。泥棒を生業とする黒澤の物語の主軸を成しているのは、黒澤の主義主張だ。相手を目の前にして始まるのはお喋りである。黒澤の仕事への考え方、金に対する姿勢、社会、人生その他諸々の…様々な事について達観しているような態度の黒澤が、泥棒という生き方を選んでいるというのが印象的だ。

 なかでも好きなのはこのシーン。

「私は人生に失敗した」佐々岡が繰り返した。(中略)

「でもな、人生については誰もがアマチュアなんだよ。そうだろ?」
佐々岡はその言葉に目を見開いた。
「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるわけがない。まぁ、時には自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」

人生は誰もが初参加かぁ…何か挑戦してやろうって気になる言葉だと思った。人は常に挑戦者。でもそういう意味では2回目の参加、再挑戦なんてものは存在しないわけだよね。つまり失敗出来ない。失敗出来ない初参加。そりゃ慎重になりますな。