はじめての現代数学

 学生時代のある時まで「数学」はどちらかと言えば得意分野だった。高校になると中学までの「数学」とは違いグッと難しくなったけれど、それでも古語だの漢語だのという外国語よりは相当マシに点数は取れたし、3年生になるときの文系or理系クラスの選択では迷う事無く理系クラスを選択した。数学の面白いのは幾つかの基礎的な公式を使って、複雑な問題を単純な個々の問題に解体し、再度つなぎあわせてたった一つの結論を求める、そんな所にカタルシスがある事では無いだろうか。そういう意味では高校の国語の授業は何故かたった一つの結論を導く為に文章からルールに沿って材料を集める、数学にも似たような作業だったわけだが、答えが一つなわけがねーだろ!俺が思った事が正解だ!などと納得がいかなくて好きじゃなかった。

 けれど大学に入って僕は数学があまり好きでは無くなった。微積分、線形代数と呼び方が変わったそいつらは、なんだか抽象的な理論ばかりこねくり回していて今ひとつイメージが出来なかった。どこかのナンタラさんが発見した凄い業績なんだよ!とか教授がなんだか重要そうに講義している事がちっとも重要に聞こえない。パズルの解法は教えられているから、与えられた問題は解ける。そして解けると楽しかったのは事実だけど、なんだか釈然としない。この問題は何のために解いているのか?この解法が僕の今後の研究、仕事に必要となることがあるんだろうか。この解法を知っていることで理解出来るアルゴリズムがあるのかもしれない!これはきっと必要な事なんだ!けれど結局それを応用する場面は無かった。そして二度と出会うこともなさそうだ。物語を読むときに、情景がイメージ出来ない作品はちっとも興味が持てない。同じような事が数学で起こったんだと思う。

 しかしそうは言ってもこの世の中に数学が不要だとは思えないし、高校数学程度で解決できる問題ばかりではないはずだ(でも現代数学が社会を良くした例を知らないので、具体例があれば教えてください)。そう思ってもう一度数学というものに触れてみよう、そう思って手に取ったのがこの本。

 「ボクはこの本で現代数学の「洗礼」を受けた。忘れ得ぬ衝撃であった」というのは帯の文句。

 「現代数学」の概要をギュッと凝縮してあまり深くは掘り下げ無いものの、その世界を一望出来るような内容になっている。『その特徴は「モノからコトへ」と集約できる』というのは裏表紙の紹介文から。第1章はまさにそのことが取り上げられ、「モノ」から「コト」へ変化した、と言うことがどういうコトなのかが説明される。本書ではこの「モノ」「コト」の説明に岩波国語辞典からの引用を載せている。

もの【物・者】事よりは割合に具体的に感じたり考えたりできる対象
こと【事】ものとしてでなくとらえた、意識、思考の対象、ものの働き、性質、ものの間の関係などの麺を取り上げる時「こと」という。「もの」より抽象的なさし方である

(改めて書き起こしてみるとなんか酷い。「もの」「こと」の説明にそれぞれ「こと」「もの」が入ってるじゃないか。何基準なんだよ…)

 で、もう結論から言ってしまうとやっぱり全然興味が持てませんでした。もう最初に言ったことと全く同じ現象が発生した。抽象度高すぎ、目的が見えなさすぎ、現実への応用方法が見えなさすぎ、そんなわけで全然頭に入ってこない。

 この本は数学に興味がある人にしか薦められない。もの凄く人を選ぶ本だ。