ココロコネクト キズランダムに感動した!

 イラストレーターが実はアノヒトらしい…という話題で人気のあるココロコネクトラノベと言えばイラストが非常に重要なのは言うまでも無いことであり、なんならイラスト命で文章はさておき…なんて現象も起こっている、かもしれない。本当は知らない、ごめん。しかしそんな中でも確かに本作はイラストが綺麗。いわゆるラノベ表紙というのは白背景にに美少女をひとりだけポンと置いておくのがなんとなく定着している節があるのだが、本作に関しては軸となる5人の男女に加え、彼らが生活している環境もきちんと描かれた表紙になっている。彩色も柔らかく、確かに例のイラストレーターの作風に似ている気がする。

 と、まあイラストについてベタ褒めしたけれど、個人的にはこの庵田定夏という人が描くココロコネクトという作品そのものにハマってしまった。イラスト抜きでも愛せる!出版社側もその辺のポテンシャルを見込んで相応のイラストレーターさん引っ張ってくるのかなぁ。そういう意味ではジャケ買いしても間違いなかったりして。

ココロコネクト キズランダム (ファミ通文庫)

ココロコネクト キズランダム (ファミ通文庫)

 前作「ココロコネクト ヒトランダム」は「人格入れ替わり」を描いた作品。ちなみにデビュー作。「ふうせんかずら」と名乗る正体不明の存在によって引き起こされた人格入れ替わり現象は、それまで平和平凡に楽しく過ごしていた5人の高校生の生活を一変させる。男女の入れ替わりでドタバタしてみたり…テンプレート展開を経て、お互いの心の弱さに気付いたり…と、様々な展開を乗り越えて平和な日常を取り戻した。で、今回の「キズランダム」では「欲望開放」がふうせんかずらによって仕掛けられる。ここで仕掛けられた「欲望開放」とは、『その時一番強く思っている』欲望をあらゆる理性や他の欲望から一時的に開放する、というものだ。

 欲望の開放、という今回のテーマ、実は最初はピンとこなかったのだが、読み進めていくとこれが物凄く深い。開放される欲望、という物が「その時自分が<本当に>思っていること」というのが非常に重要なキーポイントになる。時々聞かれる「殺してやる」という言葉を例にあげふうせんかずらはこう問いかける。

「人は、『心の中では誰かを殺したいと思うことも多々あれど、通常理性でもって表に出るのは防がれているのか』……、それとも……『誰かを殺したいと思っても通常それは上辺だけで思っていることであって、心の底から本当に殺意を抱くなんて稀なことなのか』……。どっちなんでしょうねぇ……。

さてどちらなのか。それは当事者にしか分からない。前者であればその欲望が解放された時、殺人行為に向かってしまう事になる。後者であれば罵声を浴びせるくらいで済むのかもしれない。

 本作で欲望が解放された事による最も重要なことは「彼らが本音でぶつかり合うようになる」という事だ。ここが非常に上手く作りこまれていて、痺れるような快感を感じつつ読み進めた。はじめは「欲望開放」によって不可抗力的に相手の心を傷付けてしまうのだが、結局その解放された言葉は「そのとき本当に思っている事」なのだ。我々は本音と建前を使い分けて人間関係を作っている。どちらかと言えば建前が重要視されるような社会だ。そのいつもは押し隠した本音の部分を、ふうせんかずらの仕業とは言え強制的に表に引き出されてしまう。この苦しさ。傷付けられる苦しみ、傷付ける苦しみ。同時に本音を隠す苦しみだってある。このあたりの苦しさがものすごい勢いで描かれる。凄い。本当に凄い作品。傑作です!