ミステリーの書き方

ミステリーの書き方

ミステリーの書き方

「多くのミステリ作家は、どうやって作品を生み出しているのか。一言でいえば、苦労して、です」(東野圭吾

 本書のまえがきで東野圭吾がこう一言で説明する「苦労」というのを詳細に解説してくれる本。最前線で活躍している現役の作家がなんと43人も!ミステリー作品を生み出す「苦労」について解説している。その錚々たる面々は東野圭吾に始まり…と、何人かピックアップしようと思ったけどみんな有名人なので辞めた。全部書き出すハメになる。ミステリーを何冊か読んだことのある人ならば、おそらくこの43人のうちの誰かの著作だろう。たぶん。そんなわけでボリューム満点。好きな作家だけでもピックアップして読むのも良いかもしれない。

 自分が本書を手に取ったのは、ミステリー作家が日常的に何を考え、その結果がどのように作品に反映されているか、である。ミステリー作品の醍醐味は犯罪を成立させる為のトリック。どのように、他人を騙し、読者を騙し、そしてそれを暴くのか。そのカタルシスを楽しむ事こそがミステリーを読む理由だ。トリックは巧妙で難解であるほど面白い。ではそのような巧妙な犯罪のトリックが、何故これほどまでに生まれているのか。いったい作者の思考はどうなっているのか。常に犯罪を成立させる事を考えて材料厚めをしているのか…怖いぞそれは…とかとか。(名探偵コナンのトリックで誰がどうやってあんなに考えてるんだろう)

以下一部本書の内容に触れつつ。第2章が特に自分の疑問に答えてくれる。

東野圭吾がミステリーを書くためにしていること

・些細なことを真剣に考える
・自分自身の素朴な驚きから出発する
・おざなりにされていた部分を膨らませる
・自分が読者だったら、という客観的な視点を持つ
・ひねくれてモノを観ることも必要
・好きな作品は何度も鑑賞して、自分が気に入った理由、心の動きについて突き詰める
・興味の無いものは無い、フリをする

 …なんか普通だな、と思った。こういう事ってのは何もミステリー作家に限った事ではない。モノツクル人なら誰でも心がけて良いことばかりじゃないか!また、集めたヒントが作品になるかどうか、ということについては阿刀田高氏が、

匂うかどうかは、多分、書き手の工房の状況と深く関わっている。工房、つまり小さな工場だ。書き手の頭の中は、一種の小工場であり、そこにはいろいろな機会が備わっている。機械が備わっていれば、よく匂ってくる。

と説明している。普段何気なく集めたメモ、ヒントが使えるかもしれないと「匂ってくる」、またはそれを発見する嗅覚→センスこそがミステリー作家たらしめていると言える。色々な機械を備えること、その整備を怠らない事→経験を積むこと、作家の思考プロセスの一端が見えてくるようだ。

 分かることは、ミステリー作家は「犯罪を行う為のトリックを探しているわけでは無い」と言うことだ。日常の中でおざなりにされている不思議に注目し、それを昇華させてトリックを作り出している。ミステリー作家を志す者はおおかたミステリーのファン、と森村誠一氏は指摘する。つまり読者が作品と戦う(謎を解く)ように、作家も読者へ挑戦し、騙すことを喜びとしているのでは無いだろうか。どうやって読者を騙すかという観点に置いてトリックが作られ、それを生かす最適な装置が犯罪だった…というだけの事なのだ。

 つまり犯罪でなくともトリックを用いて読者と戦える装置なら代替可能であるということだ。犯罪以外の仕掛けでミステリーを展開するとしたら何だろう。恋愛?恋愛ミステリー…最後に「やられた!大好き!」…滑稽か。