西洋美術とレイシズム

 新しく本を読み終えましたという記録。西洋美術(→宗教画)の中に見られる人種差別を扱った新書。

  • 第1章 呪われた息子 ハムとその運命

 ノアには三人の息子がいた。セムヤペテ、ハム。あるときぶどう酒で泥酔したノアが裸のまま寝てしまう。ハムがそれを発見して二人の兄に報告するが、二人は父親の裸を隠して見ていないと言う。酔いから覚めて事情を把握したノアは「カナンの子は呪われよ。奴隷の奴隷となり、兄たちに仕えよ」という。カナンとはハムの子。つまりハム系の子孫に呪いをかけた。

 なんだその話は。己の愚かさをまず恥じろ!そして宗教画はハムを褐色に描いたりするようになる。

  • 第2章 ハガルとイシュマエル

アブラハムにはサラという妻がいるのだが、なかなか子供が授からない。そこでサラの一計でエジプトの女奴隷ハガルを夫の床に入らせて子供を産ませる。しかしこのことでハガルが主人たるサラを軽んじるようになる。これを不満に思ったがサラがハガルに対して強く当たると、その仕打ちに耐えきれずハガルは荒野に逃れる。するとハガルの元に神の使いが現れて生まれてくる男児を「イシュマエル」と名付けよと告げる。その後アブラハムの元にハガルは戻り男児を産む。その後アブラハムが100歳になったときに妻のサラが妊娠しイサクという子供が生まれる。あるときイシュマエルがイサクをからかっているのを見たサラはアブラハムにハガルとイサクを家から追い出すように訴える。アブラハムは決断に苦しむが、それを察した神が「サラの言うとおりにせよ、イシュマエルもひとつの国の父とする」と伝えた。そこでアブラハムは、次の日の朝早く、パンと水の革袋をハガルに与え、イシュマエルとともに家から追放する。荒野をさまよい、パンや水が尽き、イシュマエルは瀕死。ハガルはそれを見て泣く。その母子に神は使いを送って救う。

 ちなみにイサクを生んだサラは90歳らしい。高年齢出産どころではない。しかし神のパワーの前にそんな人間の都合は関係ない。イシュマエルやハガルはムスリムとして描かれたりユダヤ人として描かれたり、黒人として描かれたり…という話。

 この章ではシバの女王ベルキスや三賢者で有名なマギとかの描かれ方が解説される。



 人種差別意識って根深い意識と思うし、人間という生物に植え付けられた仕組みなのだと思う。食欲/性欲/睡眠欲的な生物として植え付けられた仕組み。聖書に描かれ、それが宗教画として形になり、さらにその時代の価値観が反映される。宗教画って今も新作が作られたりしてるんだろうか。現代的な価値観を盛り込んだ宗教画…は、結構混沌としそうな気がする。人種、経済、国家、思想、ジェンダー云々を、宗教的な場面に乗っける…???いや大炎上どころじゃないな。誰もチャレンジしたくない。いやそこにチャンスがありますか?私にはできませんけども。芸大生に届け。

 ところでこんな酷いエピソードが聖書に?聖書って何考えてんの?って思ったけど、そもそも人の営みとしてそういう物語が先にあるんだろうな。差別とか奴隷とか、社会の仕組みの中にまずあって、それを説明しようとしたのが聖書って順番なんだろうね。