ライディング・ロケット

 本を受け取って予想していたよりもずっと分厚い!と言うのが最初の印象だったけれど、あまりの面白さに一気に読了。宇宙飛行士って人種はやはりどこか飛び抜けた資質を備えた人種、つまり文才にだって長けているのかなー。

「ぶっとび宇宙飛行士」マイク・ミュレインの、その肩書き通りぶっ飛んだ経歴が読める本書は「宇宙飛行士」という職業を目指す人には多分薦められない。何故なら本書はノンフィクションであるからだ。子供の頃、彼のような体験をしていなければ、宇宙飛行士という目標まで辿り着けないのか?彼のようなぶっ飛んだ経験が?思想が?そんな不安に襲われるに違いない。実際彼の幼少の頃のエピソードはどれも「これフィクションじゃないの?」と疑う程に現実離れした体験ばかり。多少の誇張があるにせよ、それらの事がマイク・ミュレインという宇宙飛行士を作り上げた裏付けであるとすれば納得せざるを得ない。

 上下巻に渡る長編自伝であるが、最も面白いのはやはり初フライトへの過程が描かれる上巻。「宇宙を飛びたい!」という熱い情熱が満ち溢れ、その頃の筆者のもどかしさが伝わるようであり、その夢が叶う瞬間は感動的だ。電車の中で胸が熱くなってしまった。下巻にも何度か宇宙に飛び立つが、主にNASAという組織に対する提言が主である。これはこれで考えさせられる内容だ。

 上下巻通して興味深かったのは、筆者の妻ドナの描写である。シャトル発射を繰り返す度に、死の危険に晒される夫を見守るのは本当に精神的に病んでしまう。こう言ってしまうと乱暴だが、シャトルに乗って爆死してしまう宇宙飛行士は幸せのうちに死ねるかもしれない。しかし残される妻、そしてその死の可能性を多分に抱える夢を応援しなければならないこと、感情的には複雑な事だろう。宇宙飛行士は配偶者を持つべきでない!と言えるほどに。事実本書ではドナへの感謝に、多くのページを割いていて、彼の大きな支えとなっていた事が分かる。

 宇宙飛行士を目指す人には薦められない!と言いつつも、本書は宇宙飛行士という人種を知るには最高のテキストとも言える(最近の宇宙飛行士は随分丸くなっているそうだが)。だが宇宙飛行士に興味の無い人にも、ぶっ飛んだ体験と人間を味わうことの出来る、最高の読み物なんじゃないだろうか。献本頂いた本が好き!に感謝。

ライディング・ロケット  ぶっとび宇宙飛行士、スペースシャトルのすべてを語る

Amazonで購入
書評/サイエンス