ハート・ロッカー

 祝アカデミー賞6部門受賞!アバターとの一騎打ちだと言われていた今回のアカデミー賞も、フタを開けてみれば視覚効果に係わる部門以外はほぼハート・ロッカーが受賞と言う事に。正直な所、作品としてはハート・ロッカーの方が好きだけど、バッチリ制作費を掛けて作った超大作アバターが作品賞を獲るだろうなと思ってた。大作をアメリカ映画界は好むんだろうな、という。でもそうじゃなかった。そう言えばそうだ。アカデミー賞を受賞する作品って良い意味でのハリウッド的大雑把さとは別の指向性を持っている。そんなわけでとにかく自分が好きだ!と思った作品が賞を獲るのは嬉しいものだ、という話。

 ジェームズ・キャメロンの元妻、キャスリン・ビグロー監督の作品。としまえんにて。調べてみてビックリしたんだけど、都内で上映されている館が少ない。新宿なんてあれだけ映画館があって、上映しているのは新宿武蔵野館だけ。新宿武蔵野館て!お世辞にも大きいとは言えないスクリーンが二つあるだけですよ!もっと多くの人に観て貰うためにも上映館が増えていって欲しいところ。ちなみに新宿武蔵野館で上映される映画はいつもセレクトが良くて非常に好きです。

 舞台はイラクで爆弾処理に従事するアメリカ兵の姿を描く。ハッキリ言って自分は戦争の事なんてこれっぽちも考えた事のない凡庸な日本人であるわけで。イラクでどんな事が起こっているのかなんてちっとも知らなかった。しかしこの映画だ。爆弾処理がどんなものかを見せつけられた。冒頭に仕掛けられたシークエンスが物凄く効果的で、その後の物語を大きく支配する。もの凄く上手い仕掛けだ。スクリーンからビシバシと発信されるギリギリの緊張感を、受信する下地がそこで作られる。

 そんな緊張状態の中でも飄々としたジェレミー・レナーの表情がとても印象的だ。そのギリギリの緊張感の中で爆弾を解除すること、喜びなのか、絶対の自信なのか、プロとして平静を装っているのか、それとも恐怖を突き抜けた凶人なのか、そのいずれとも取れる。作品中、任務を解かれて夫婦でスーパーマーケットへ買い物へ行く場面が描かれる。命の危険とは全く無縁の幸福な瞬間。だが表情は退屈そのもののように見える。だが一方でそういう任務に向かう姿は物凄く格好良いものに見えた。「格好いい」という表現が不謹慎なのかもしれないし、適当なものなのか分からない。だけど駆け引きを楽しむようにして爆弾を解除していく姿、振る舞いは乱暴だけどきっちりと仕事を果たすその姿、防爆スーツを躊躇いなく脱ぎ捨てる姿、そのそれぞれに強い気持ちを感じるのだ。

 ネタバレ。ブラボー中隊が最後に当たった任務は失敗に終わる。体中に取り付けられ爆弾と鋼鉄の鍵がどうしても解除出来ない。自分には家族がいると泣く男性。今まで相手は感情を発してくる事は無かった。無機物か死体だったが、最後の最後に強烈なメッセージ。そして爆発。後味は最悪だ。だがその最悪な後味こそが現実なんだろう。鮮やかな爆弾解体ヒーローを描いたつもりはありません、というメッセージで物語は締めくくられるのだ。この配置が本作を傑作にしていると思う。最初のシークエンスといい、物語の配置が上手い。