風立ちぬ

screenshot

 宮崎駿を引退を表明した。何度目だ。もはや伝統芸能の域と言えるだろう。言えないな。スタジオジブリが作る映像は、同じくクオリティ高いとされる京都アニメーションと同じベクトルを向いているようで、何か違う気がする。京アニが作るのはアニメなんだけど、スタジオジブリが作るのはアニメーションって感じ。同じく絵を動かすパラパラ漫画だけど、やっぱジブリはアートの臭いがあるよね。是非はともかく。是非はともかく見てきた。最近のジブリ映画ってあんまりTVでリピートしないよね。なんだかんだでナウシカ魔女の宅急便ラピュタ・トトロのローテーションが強い。声優が演じてるからだね!…決して無関係だとは思っていないよ?声優でない役者をメインに使うようになったジブリ作品は、アニメっていう大衆的な娯楽からちょっと距離を置いているように感じる。アートの顔をしたがっているような気がするのだ。是非はともかく。

 風立ちぬ、だ。庵野秀明監督が演じる堀越二郎は、初めこそ違和感バリバリだったが、物語が進むに連れて慣れが出てくるので概ね問題無いような気がする。庵野さんが演じる事で、堀越二郎が浮世離れした男性であるというクッキリとした立ち位置が示せたと思うし、それが狙いなのだとすれば素晴らしい。現実の堀越二郎はどんな男性だったのだろう?しかし、日常会話や仕事をしている場面などはともかくラブシーンまで同じような平坦な音色で攻められると、ちょっと庵野監督の髭面がチラついて感情移入を阻むような気がした。大事な場面なのに。奥さんの里見菜穂子役の瀧本美織さんは女優という事なので、そのあたりの芝居はちゃんとしている。ちゃんとしている奥さんと庵野秀明…。いいのか?まぁいいような気もしてきた。

 「美しい飛行機を作りたい」という自らの仕事に打ち込む、その姿はやはり男なら何かを感じずにはいられない。好きな事を仕事にし、周りから評価され、自分でも満足できる結果を得る。男性的な喜びに満ちた映画だ。飛行機を設計しているというところも男性的であると言えよう。強く、速く、美しく。そのためには家庭を犠牲にしてでも結果を得る。そんな打ち込む夫のためになりたいと尽くす妻。そんな妻は病気で伏せがちだったが、夫の邪魔にならぬようと、人知れず高原病院へと姿を消す…。

 どこまで史実に脚色しているのか、忠実なのかは分からない。しかし「風立ちぬ」という物語が終わった時、とにかく自分は嫌な気分だった。仕事に邁進する、結果を出す、評価を受ける、という男性的な理想、可愛くて尽くしてくれる妻、そんなそれぞれが美しいなぁと感じていた矢先、唐突に高原病院に戻る妻。そして新開発の飛行機は素晴らしい性能を発揮した。堀越二郎の成果は、妻を犠牲にして生まれたのだ。因果関係が正しいかはともかく、自分にはそう見える。気持ち悪い。大好きな奥さんを犠牲にしてまで得るべきものだったのか。片方しか無いのか。だが妻は自ら姿を消した。彼女にとっては、その行為すら夫の為を思っての事なんだろう。美しい関係とも言える。自分にはよく分からない、その当時の男女関係の中では美しいのかもしれない。でもすごく悲しい。堀越二郎はあの後、妻に会ったんだろうか。得た結果について妻に報告し、感謝を伝える機会が合ったのだろうか。

**

追記。効果音に人の声を使う、人の声だと分かる用に使うというのはちょっと面白いと思った(ちなみにドラゴンボールの効果音は声で作っているものが多いらしい)。飛行機周りの効果音が特に目立って人の声を使っていたように思う。機械といえど、人の思いが入れば感情が生まれる、という事のように思う。音でもうひとつ気になったのは、モノラルで音がなること。台詞は当然の事ながら、効果音から音楽まで全部センタースピーカー1本。なぜだ。その時代的な雰囲気を作ろうと思ったのだろうか。でも自分はあんまり気に入らなかった。テレビならともかく、あんなデカイスクリーンで真ん中からしか音がしないのは、何やら違和感がある。せめてステレオで作ってほしい。

**

さらに追記町山智浩さんの解説ってのを今更に読む。

町山智浩さんの『風立ちぬ』の解説が深かったので書き起こしました。 - NAVER まとめ

 
 …え!?堀越二郎と菜穂子の組み合わせって妄想なの!えー…。史実だと思ったから仕方ないかと思ったけど、宮崎駿の妄想だとすれば菜穂子の行動はあんまり気持ち良いものじゃないなぁ…。あの夫婦の(妄想の)関係として、必然性があったのかもしれないけど…。それにしても町山さんの読み解きは素晴らしい。あんな風に言葉で語らずに散りばめられているメッセージを捕まえられるようになりたいものである。