心が叫びたがってるんだ。

 バルト9で観てきた。とにかく終始ドキドキと落ち着かなく観ていた。良いなぁと思ったり…することばかりだと良かったんだけど、スベってるなぁと思ったり、無理があるなぁとか、マイナスなのも含めて。思いつく順番に書いていく。忘れないうちに。

D

 いきなり他人の言動を引用するけど、だいたい思ったことを言ってもらってるので宇多丸さんのここさけ批評を貼っておく。これ公式か?まぁいいか。

 ほんと、冒頭は妙な生々しさある。幼さゆえの失敗。そして両親の離婚。心ない父親の言動。そして声を失ってしまったっていう導入はすごい発明だと思う。子供が憧れるお城が実はラブホテルでしたーっていう、ちょっとナルホドと思わせる勘違いからの不倫展開。母親に喋ってしまったばかりに以降はお察しの展開。でもそりゃ喋りますよね!おしゃべりな子じゃなくっても喋るわ!そんで最悪な父親。幼い順の別れ際に言ったさらなる畜生発言。そりゃトラウマだ馬鹿野郎。なんなんだ一体。あの男には惨たらしい末路を用意してください神様。といった感じに完璧に気持ちを捕まえる素晴らしい冒頭だと思った。

 実は声が出ないだけでメールとかの文字なら意思疎通できるってのは確かに「あ、そうなの」ってちょっと肩透かし感あるけど、まぁそれは良いと思うの。単純に声だけでないっていう不思議な状況、呪いっていうファンタジー的仕組みにも繋がるし、なるほど口をチャックした玉子は本当にこの世界にいるのかもしれない、と。その辺はすんなり受け入れた。絶望先生のめるめるみたいな人ってことでしょ。あ、でもそれならそれで周りにそう認知されてないとおかしい気もするな…。みんな携帯くらい持ってるわけだし…。喋れないけど筆談は大丈夫な子、ってことで普通にクラスメイトが認識していても良い気がする。まぁいいや。それもファンタジーだし。そういう他人との意思疎通が出来ないってスタートの方がドラマ的に都合が良い。

 次。メインキャラ以外が上手に描けていると言う評もあるけど全然そう思えなかった。むしろあまりにもチョロい存在すぎやしませんか?時間的制約なのかもしれないけど、短時間のシーンの中での彼らの手のひら返しが激しすぎて非現実的すぎる。「なんでミュージカルなんだよー。めんどー。」っていう雰囲気だったのに、数分も経たずに「やっぱやってみっかー」。とにかくクラスメイトがご都合すぎる。ならいっそ外せ!いなくて結構だ!

 次。これ、どうして恋愛の映画にした?冒頭の問題提起を解決するのは、家族との和解しか無いのでは?確かにクラスメイトと文化祭的なものに取り組む中で心が揺れ動いていく一面は描かなくてはならないだろう。恋愛的な事もその中で起こりうるイベントだ。でも彼女のトラウマは誰によって植え付けられたのか?父親だろう?そしてその後、母親によってだろう?あの母親なんだクソが!父親がいなくなった後に、あの母親が順に対してどのように接してきたかを考えるだけで胸糞だ。そうなんだ、この映画は家族の関係において救いのない、物凄く胸糞悪い映画なのだ。なぜそれを解決しない!恋愛も青春の一面なら、家族との関係を描くのも青春映画の一面ではないか!家族の問題を解決しろ!申し訳程度に母親が泣いた程度じゃ全然解決にならねーんだよ!折角、順の体験を元にしたミュージカルをやるのに、その上演がトラウマの解決にならないなんて無駄すぎる仕掛けだと思わないか?順があの物語を歌い、母親が本当の彼女の気持ちに気付き、自らの行いを悔い、涙する。この展開でメチャクチャ色んな事が解決するし、いい話になると思うんだけどな…。前日に主役がバックれるあるある展開より面白いと思うんだが…。

 母親がなぜ順の味方になっていないのかが謎。夫の裏切りに傷ついたり、仕事に疲れていたり、そういう状況が彼女を襲った事は間違いない。でも、順が何故喋らなくなってしまったのか?そのタイミングが離婚のタイミングと同時であったことを考えれば、夫婦の問題が幼い我が娘の心になんらかの障害をもたらしてしまった事に気付くではないか。そこに罪悪感が無かったのか?あったのかもしれないが、結局無力感に苛まされて憎しみに反転してしまったとでも言うのか!あああああ!くっそおおおお!この映画きらいだ!嫌いなのは強烈に母親が嫌いなのと、その性悪女にロクな罰が与えられなかったからだ!父親もだ!なぜその関係を解決せずに順は喋り出すんだよおお!!!!因果関係がおかしいだろ!創作されたお話なんだから!因果はちゃんと繋いでお話にしないと!ただのご都合かよ!

 普通にお喋りは出来ないけど、歌なら大丈夫。気持ちを伝えられる。この仕組みを活かすためには、やっぱりミュージカルの上演は必要だったと思う。逃げ出さずに。逃げ出すのは母親の方で良かった。前日にチラシとか渡したりして、「恥をかかせないで!」みたいな感じでチラシを破り捨てたりして。そんで順がガッカリしちゃったりするんだけど、それはそこまで一緒に準備を共にした仲間たちの励ましとかあったりして。裏でこっそり「成瀬さん、すごく頑張ってるんです。見に来てあげて下さい」みたいな事を坂上とか田崎が母親に言ったりしてね。物陰で順が聞いちゃったりして。そんで当日になるんだけど、母親はなんかモヤモヤして見に行けなくて。でもコソコソと順に気づかれないように一番後ろの席に座ったりして。んで上演ですよ。んで母親はジュンの歌う姿にボロボロと泣きながら自らの過ちに気付くという筋書きですよ!うーん、なんか似たような話があったような。まぁその辺は素人の考える事と笑ってくれ。しかし兎にも角にも歌によって母親へ思いを伝えることが必要がだったと思う。「本当に伝えたい事」っていうキーワードが度々出てきたけど、この辺に絡めて欲しかった。はぁ。

 確かにミュージカルの筋書き読むと、おしゃべりな少女と玉子の関係、それを救う王子さま、そして少女の中に生まれる「愛の言葉」とあるので、「本当に伝えたい事」は愛の告白だった、となって映画の内容と符合するけど…。その筋書きにしたいなら、母親出さなきゃ良かったんだ。坂上と一緒で祖父母の家にでも預けられてることにしちゃえば良かったんだ。ミュージカルの筋書きの中には、父母を想定した登場人物がいない。もしかして本当は母親の登場は無かったのかも…。でも「母親と別居だなんてリアルじゃない」とかそういう余計な事言った人が言って組み込まれたのかも…(完全な個人の邪推です)。

 作り手側の因果関係としては、あのクソ父親の言葉、そしてその後の結果を受けて、順は自責の念から自らを罰すると。その手段が「言葉を喋らない」だった。だから「そうじゃない、貴方の言葉で人を幸せにもできる」という魔法で呪いを解く王子様が現れたと。原因は自分自身のみにあるという考え、呪いに縛られていたので、解決に実は母親も父親も不要。うーん。わからなくは無いが…なら順が成長した時点で母親は物語から忘れて欲しかった。もしくはあんなに敵意のある母親にして欲しくなかった。うん、それだな。いつも娘の顔色を伺うような、ギクシャクした関係ぐらいにしておくのが良かったなぁ。そしたら母親側としては、順の歩み寄りを期待してるわけだからミュージカルに誘われた時点で幸せじゃん。解決じゃん。そしたら恋愛の話にすんなり行けるじゃん。

 ミュージカルの結末の歌。聞こえにくいったらないんだけど…。あれは音楽担当のケジメ案件じゃね?伴奏も大きくて歌詞が聞こえないし、二人で違う歌詞歌ってんのに、混ざって何言ってるか聞こえないし。「本当に伝えたい事」があの歌詞に入っていたのでは?聞かせなくてどうする?アカペラでいいくらいだっての。映画館なんだし定位を分けるとかして。注力するとせめて片方は聞けるとかそういう事してよ。悲愴とオーバー・ザ・レインボーマッシュアップするなんて結末に相応しい素晴らしい仕組みだなぁと思ったのに。

 ここまで色々書いたけど、この設定のままもう一度テレビアニメとかで1クール、できれば2クール使ってやってもらえないだろうか。色んな設定だとか、個々のキャラクターの抱えてる問題とかは凄く興味深い。もっと時間をかけて積み上げて、そして解決して欲しい。アニメ映画としては長い120分を使ってはいるものの、TVアニメ換算すれば5話から6話程度ということになる。絶対にテレビの尺でやった方が良い。6話で家族関係を解決してから、残り6話で恋愛の話に持って行けばいいじゃないの。映画120分で解決するなら田崎と仁藤の扱いは諦めて、順と坂上の関係に注力すればもう少し納得感あったかも。恋愛オチも悪くない可能性が。映画である程度ヒットしてるわけだし、テレビアニメシリーズ用に作り直してもある程度ヒットを見込めるのでは?プロデューサーさんお願いします!

 もう一つ。エンディングテーマはなんであんなことになっちゃったの。乃木坂46て。劇中でミュージカルやるっていう仕組みなのに。台無しすぎるだろ。音楽担当はケジメしろ。センスねーぞ!政治的なアレで乃木坂46が外せないなら、せめて劇中歌を歌って下さい。ただでさえ本編中でまともに歌聞けてないのに…。

 忘れてた!もういっこ!携帯の画面を読ませる演出やめろ!映画館のスクリーンじゃ何書いてあるかさっぱりわからんわ!


 …で、文句言いまくったけど、冒頭で書いたように終始ドキドキしながら観た映画。それはやっぱり登場人物の魅力であったように思う。だからこそ感情移入してしまうし、なんだかうまく行ってない展開が歯がゆく思う。嫌いな映画だけど悪い物語ではないとは思う。時間は短かったけど、ミュージカルシーンなどはやっぱりウルッと来るものはある。歌の力すごい。それは納得する。劇中でも坂上が言ってた。

 宮粼駿監督がほぼ引退状態のアニメ映画界で、細田守監督と長井龍雪監督が牽引する立場であることは間違いない。ほんとにほんとに頑張って欲しい。