黒い十人の女/監督:市川崑

黒い十人の女 [DVD]

黒い十人の女 [DVD]

 一人の男(船越英二)を巡る10人の女達の物語。妻を持ちながらも根っからの浮気性と軽薄さで次々と女性と関係を持ち、妻を含めた10人の女性達から復讐を受ける、というのがざっくりとしたお話。

 「黒い十人の女」ってタイトルがまず凄いキャッチーで良いなと思う。「黒い」「十人」「女」、これだけで何かドラマを感じてしまうよね。特に「黒い女」であることが興味を強く引きつける。本作における「黒さ」は、妬みや恨み、暴力、愛憎…と人間関係におけるネガティブな要素をぎっちり詰め込んだ人間の黒さである。

 一人の男を軸に10人の女性が時に協力し合い、憎み合い、だが奇妙な連帯関係によって彼女らは繋がり続ける。そういった人間達の居心地の悪さこそが本作の根幹のように思う。憎むべきは男なのか、女なのか、それとも仕事か、社会か。絶対の正義は存在しない状況で、女は愛に壊れ、男は仕事に壊れていく。

特に印象的なのがラストシーンの船越英二岸恵子の会話。

「子供なんか関係無い、君は全然分かってない。俺は仕事がしたいんだよ!」

「死んだ私の両親はね、一人娘の私を飾り立てて、人に見せびらかすより他は何にもしてくれなかった。両親はそういう風にしか私を愛してくれなかった。だから私は女優になろうなんて一度も思った事無かったのに、いつの間にか女優になってたって訳なの。

 あなただって同じ事なんじゃないの?今までやってたテレビの仕事、あなたにとって命より大切なんてもんじゃないでしょ。ただなんとなく、毎日やってたんでしょ。あなた、何故生きて、何故働いて、自分の人生の目的が何かなんて考えて見たことあるの。」

「男がね、男として働き場所も取り上げられてしまっていても、子供を生めばそういう事が出来るとあんた思うの?もしそんな男がいたらそいつは怠け者ですよ。不良だよ。僕はそんな人間じゃない。このままここにじっとしてるんじゃ、俺死んだも同じなんだ。」

「そういうことなのね。人間っていつでもこうなのね。同じ日本語で喋っていても貴方にはちっとも私の言うことは分からないし、あたしにはあなたが何故そう悲しむのかおかしく思えるだけだわ」

 時代背景とセットにするときっと物凄く意味深い。

 若い中村玉緒さんがめちゃくちゃ綺麗だった。