あるリーダーを見ながら

 明確な方向性の無いダメ出しは、リーダーとしての資質に欠ける。「具体的に何が気に入らない訳ではないが、ひとまずもう1回見てみよう」そんなダメ出しは、相手に対してそのやり直しの方向性を完全に放棄しているように見える。手取足取り方向性を与えて、その指示通りに動いて貰うという安易さを嫌って、あえて自由度を高くし、個々に模索して貰うというメリットが無いわけでは無い。確かにその事によって、自主性や発想の転換が生まれるかもしれない。だがこれは時と場合、相手に依るところが大きく、そして多くの場合において相手を迷わせる。「ひとまずもう1回」なんてやり方は、リーダーの発想が貧困な事の証明だ。

 リーダーとは方向性の提示をしなくてはならない。それが文字通りの役割である。ベテランリーダーであれば、寡黙であってもメンバー全員の方向性が整う場合がある。それは付き合いの長い周囲の人間が、リーダーの意図をくみ取ってくれるからである。その場合はわずかな方向修正をするのみで十分だ。一方そのようなベースが無い経験の浅いリーダーであれば、方向性を常に示し、周囲との意見を摺り合わせながら動かなければならない。それが無ければ自らの引き出しの貧困さを暴露してしまうと同時に、チームの信頼と方向性を失う。