われらはレギオン

 交通事故で死亡した主人公(ボブ)が、保険によって複製人(レプリカント)と呼ばれるAIとなって復活する。任務は宇宙船のコントロールするAIとなって、未知なるハビタブル・ゾーンを見つけること。死亡前のエンジニアとしての才能に加えて、AIとなったボブは圧倒的学習能力によって様々な知識を得て、新たな発明を重ねていく。3Dプリンターがとにかく万能で、素材はその辺の星から調達してあらゆるものを製造する。自身の補修部品はもちろんの事、新たな兵器の製造、そして宇宙船をまるごと作ることも。新しいと思ったのは、新造した宇宙船に自分のAIを複製する事。自分を複製できる!なんという発想か。AIで人間の知能をシミュレート出来るということは、デジタルコピーが出来るということ!これからのAIものはこの仕組がスタンダードになるだろう。スパイスとして、コピーした自分自身はなんらかの差異があって微妙に性格が違う。知識は同じなのにアウトプットの方法が違うということ。面白い仕組みを作ったな!まぁ、全く同じ人物が現れても物語的には変化に乏しいのでそうしたのであろう。

 全体的に大変読みやすく、ライトノベルに近い文体のわかりやすさ。ほんとのハードSFは科学と仕組みの理解を絶えず求められるのが大変なところだけど、本書はそんなこと全然ない。さっくり読める。強いていえば、いつのまにか自己コピーが増えているので、名前とキャラクターの一致しないボブがどんどん増えていく事。そうして<ボブの宇宙>(ボビヴァース)が拡張されていくのだ。読みやすいといえば、主人公を取り巻く設定はまさしく日本で流行っている(流行ってるよね?)異世界転生+俺TUEEEという仕組みではないか!SFオタク主人公がちょいちょい挟んでくるSF小ネタを挟んでくるのも一緒(有名なのだとスタートレックとか)。ライトノベルが他作品のパロネタとか、ネットスラング使うように本作品でも、オタク側から物語を語って聞かせるのだ。主人公への親近感作りだろうねぇ…。海外SFの新たな潮流なのだろうか?(めちゃめちゃ余談だが、ライトノベルがパロネタとかネットスラングとかを多用して笑いを取ろうとするのは嫌いだ。初期の頃はまだ新鮮があったが、最近は安易さが目立ってゲンナリするのだ)

 これからのお話で気になっているのは、エリダヌス座デルタ星系で見つけた生命体であるアルキメデスたち(ボブが命名)たちの行方と、移住計画が進みつつある地球人類の運命だ。アルキメデスたちはいわゆる原始人的な集団で、ボブが新しい道具や知識を与えることで危機を乗り越えていく(ああ、そんな仕組みが俺TUEE系ラノベだ)。ボブが観察をしているわけだが、道具を与えたり、敵から守ってあげたりしている間に、ボブは神なる存在になっていた。ハーレムかな?それはともかく素直、純粋、賢さの象徴、そしてボブの成功体験となりつつある新しい生命体と、それと対を成すように地球人類は愚かな生命として描かれれいる。そもそも地球脱出を余儀なくされているのは、核戦争の結果である。さらに宇宙船への乗船順を巡って争い、ずる賢い交渉、脅し、ボブに対するハッキング行為、その他さまざまな醜さで暴れる。すでにボブは2つの星の命を鍵を握る神なる存在だ。果たしてどんな運命をそれぞれに与えるのか。

 本作は3部作とのことでまだ始まったばかり。原作である英語版ではすでに17年10月に第3巻が刊行済みとのこと。そこそこ人気があったから邦訳されているに違いないので、アメリカでも何らかの成功は収めているのであろう。楽しみにしたい。日本での第2巻は7月、第3巻は10月とのこと。